泥の中の愛61|169話 見慣れているようで、知らない ─ 招かれざる従兄と、妻が育てた風景

バスティアン|泥の中の愛61|169話 見慣れているようで、知らない ─ 招かれざる従兄と、妻が育てた風景 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

オデット主催のティータイム当日。

朝から続く小さな不運の連鎖、
チャイムを鳴らす招かれざる客、
そして寝室から見下ろした「妻の人生の風景」。

喜劇の顔をしながら、静かに痛い。

不運の連鎖

日常が揺らぎ始めた。オデットは、もう避けられなくなったその事実を、諦めるように受け入れた。

丹念に準備したティータイムは、計画から外れていった。
新しく用意した夏用ブラウスは、アイロンで袖先を焦がして着られなくなった。

客の数に合わせて揃えたティーカップは一つ割れ、雑貨店に走ったが同じものは品切れだった。
似た色合いのもので取り繕ったが、1セットには到底見えない。

落胆したところに漂ってきたのは、むせるような煙の匂い——オーブンのプラムパイ。

焼きたてのパイは消えたが、幸い、ラズベリージャムのクッキーとバラのゼリー、フルーツケーキがあった。

それでも気が晴れないのは、自分への失望感からだった。
そして、その苦悩の果てには——このすべての不運の始まりである男の名前があった。


「そうそう。昨日、マリーさんが素敵な紳士とデートをしていたという噂がありましたけど?」

教師の妻の不意打ちに、ティーカップを落としかけた。

「従兄の方がロスバインを訪れたと聞きましたが、もしやその方が?」

「……はい。そうです。久しぶりに従兄に会って、昼食を一緒に食べたんです」

こみ上げる怒りを飲み込み、オデットは再びくだらない芝居の役者になった。
自分でも驚くほど巧みな嘘をついた。

皆すんなり信じたが、教師の妻は困ったお願いを付け加えた。
目が覚めるほどハンサムな方だったそうだから、村にいらしたらぜひ一度——

その時、チャイムが鳴った。

玄関ポーチの巨大な不運

「どうやら、マリーさんの従兄さんがいらしたようですよ?」

窓の外を見た教師の妻の声に、会員たちが一斉に窓へ集まる。

ライトグレーのスーツの長身の男が、玄関ポーチの下に立っていた。

——あの男が自分の名前を呼ぶかもしれない。

不吉な予感に目の前が真っ暗になったオデットは、玄関へ駆け寄り、勢いよくドアを開けた。

「早いですね」

先手を打って口を封じ、唇の形だけで囁く。

——『助けてください』

眉をかすかにひそめたバスティアンは、すぐに顔色を変えた。

穏やかな表情、柔らかな微笑み。

「従兄弟を夕食にお招きしたのです。集まりが終わった後にいらっしゃるはずだったのに。手違いがあったみたいです」

「従姉妹の言う通りです。時間を勘違いしてしまったせいで、大変ご迷惑をおかけしたようです」

丁寧にお辞儀をし、花束とチョコレートの箱をオデットの腕に抱かせ、改めて伺いますと自然に事態を収拾——するはずだったが。

「ここまでいらっしゃったのに、わざわざそんなご苦労をなさる必要はありませんわ。大丈夫ですから、中へどうぞ」

教師の妻の言葉に、会員たちも賛同した。
助けを求めるオデットの眼差しに、バスティアンは予想外の答えで応えた。

「ご配慮ありがとうございます。従姉妹の考えも同じであれば、そうさせていただきます」

皆の視線がオデットに集中する。

「……もちろんです。さあどうぞ中へ入って」

か細く震える声。
にこやかに敷居をまたぐ男。

オデットは絶望的な気持ちで、巨大な不運の後を追った。

寝室のカール・ロヴィス

家へ招き入れられたバスティアンは、驚くほど厚かましく客たちと挨拶を交わし、
しまいには「カール・ロヴィス」というとんでもない偽名まで名乗った。

会員たちの関心は、すっかりマリー・ヴェラーのハンサムな従兄に集まってしまった。
カール・ロヴィスになりきったバスティアンも、これまでにないほど愛想よく彼女たちの相手をする。

このままでは、昨夜遅くまで準備したレースの図案まで無用の長物になってしまう。
見かねたオデットは、とうとうバスティアンを二階へ連れていった。

「お客様が帰るまでは、絶対に降りてこないでください」

寝室の窓際にティーセットを置き、厳重に命じる。

「お答えください、カール・ロヴィスさん」

「姉さんはその名前が気に入らないようですね」

「あなたとふざけている場合ではありません」

「それでも、マリー・ヴェラーよりはいいと思うが」

「バスティアン!」

叱るように名前を呼ぶと、彼は声を上げて笑った。

「もう降りてください。許可が出るまでは、ここに大人しくいますから」

窓際のテーブルで足を組み、ティーカップを手にする姿は、憎たらしいほど悠然としていた。

「その約束は、必ず守ってくださいね」

最後に念を押し、オデットは急いで階下へ戻っていった。

妻の人生の風景

一人残されたバスティアンは、落ち着いた目で部屋を見回した。

ベッドとクローゼットとドレッサーだけの質素な部屋。
新しい壁紙とは対照的に、床板はひどく古びていた。

家をすべて修理する前に逃げなければならなかった、オデットの切迫した気持ちの一片に触れたようで、胸の奥に苦いものが広がった。

だが、装飾の少ない空間の至る所に、主人の痕跡が残っていた。

自ら編んだレースの家具カバー。
ジュースの瓶に活けられた一輪のバラ。
サイドテーブルの本の山。
化粧台の鏡に貼られたメモ。

生活の痕跡がにじむ空間だと気づいた瞬間、バスティアンの眼差しが冷えこんだ。

——オデットはもう安定している。

伯爵夫人の言葉は、虚言ではなかった。

新しい出発——その切実な夢が、ついに叶ったかのようにさえ見えた。

習慣的に取り出しかけた煙草を握りしめ、笑い声の聞こえる窓へ近づく。
裏庭の屋外テーブルを囲み、レース編みをするオデットと客たち。
貝殻や小石で縁取られた花壇には花が咲き乱れ、菜園では新鮮な野菜が育っている。

オデットが心を込めて育てた、人生の風景なのだろう。

バスティアンは、見慣れているようで知らないオデットを、じっと見つめた。
口数は多くないが、主催者の役割をきちんと果たしている。

時折聞こえる澄んだ笑い声は、心地良い音楽のようだった。

安堵感と虚脱感の混じった笑みを浮かべてテーブルに戻ると、
オデットの淹れたお茶は、すでに冷たくなっていた。

「お腹が空いた、オデット」

集まりが終わり、客たちが散っていった後、オデットが戻ってきた。

「もうすべて終わりました。もうお帰りください」

「確かに、夕食に招待されたと聞いたのですが。違いましたか?」

びくりと身をすくめるオデット。
言い訳を探す彼女に、バスティアンは包帯の巻かれた手首から視線を上げた。

「お腹が空いた、オデット」

オデットは戸惑いの果てに、深いため息をつく。

赤くなった目元に縁取られた青緑色の目が、夕方の光の中で透明に輝いた。

「一体どうしてそんなに痩せてしまったのですか」

「忙しくて」

「それでも、食事はきちんと摂るべきでしょう」

「飢えさせたまま追い出そうとする、薄情な従姉妹が言うことではないと思いますがね」

フッと笑いながら距離を縮めながら、最後の一歩だけを残す。——ひびの入った壁を崩すための、戦略だった。

「もう少しだけ、一緒にいよう。話があるんだ」

「……準備ができるまでは、降りてこないでください」

厳しいとは言えない警告を残し、オデットはお盆を持って逃げるように寝室を後にした。

作戦の成功を確認したバスティアンは、ためらうことなく妻の後を追った。

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