執行猶予④|100話 夫が帰ってきた ─ 礼拝堂で交わした、最初の視線

執行猶予④|100話 夫が帰ってきた ─ 礼拝堂で交わした、最初の視線 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作100話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

正午を知らせる鐘が鳴り止むと、
葬送曲の演奏が始まった。

礼拝堂に静かな旋律が満ちていた頃、
固く閉ざされていたドアが開いた。

墓地のタバコ

手首にはめた時計を確認したバスティアンは、
それほど急ぐ様子もなくコートのポケットからタバコ入れを取り出した。

ひどく古びてはいるものの、
なかなかの格調をもって建てられた礼拝堂を、細くしかめた目で見つめた。

かつて輝かしかった過去が、取るに足らない現在をさらに惨めにしている。
貧乏公爵の最期には、よく似合う場所だった。

ディセン公爵の訃報が伝えられたのは、帰国船がベルク海峡に入った頃だった。
葬儀への参列要請は、実質的には皇帝の命令だった。

オデットの父親が死んだ。
その報せを受けた時、バスティアンは思わず失笑した。

最後まで何の役にも立たない男だった。

どうせすべて承知の上で足を踏み入れた場だった。
皇帝との取引のための手段であり、今やその結実が目の前に迫っていた。
ちょうど、海外勤務中の行動に対する疑念を払拭するような芝居が必要な時でもあった。

短く燃え尽きたタバコを消したバスティアンは、
最後の一口の煙を吐き出しながら将校帽をかぶった。

不要な感情を消し去った瞳は、
雨をいっぱいに含んだ灰色の雲のように静かに沈んでいた。

もうすぐ正午。
貧乏な皇女の夫の役割を始める時だった。

アルマと遺族席

ティラには遺族席は許されなかった。
父の姓を継いでいない私生児というのが理由だった。

結局、オデットは空席の目立つ遺族席を一人で守ることになった。

その隣にはアルマがいた。
葬送曲が流れ始める頃には、オデットの肩にもたれたまま眠り込んでいた。

「さあ、アルマ。もうパパのところに来なさい」

ジェンダース伯爵が迎えに来ると、アルマは嫌そうに首を振った。

「無理をなさらないでください、ジェンダース卿。眠ったらお返ししますから」

やがて子どもを抱き上げたジェンダース伯爵は、
オデットの隣に腰を下ろした。

礼拝堂には再び静かな葬送曲だけが流れていた。

ドアが開いた

予期せぬ騒ぎが起こったのは、
アルマを父親の腕に戻してやったまさにその瞬間だった。

固く閉ざされていたドアが開いた。

戸惑った弔問客たちがざわめく中、一人の男が礼拝堂に入ってきた。
海軍の制服を着た、長身の将校だった。

規則正しい革靴の足音が、葬送曲が止んだ礼拝堂の中に響き渡った。
礼拝席の間の通路を歩いていたバスティアンは、祭壇まであとわずかのところで立ち止まった。

「バスティアン・クラウヴィッツです。到着が遅れ、申し訳ございません」

混乱していた司祭は、ようやく安堵して胸をなでおろした。
バスティアンがその花を故人の霊前に捧げると、一時中断されていた葬送曲の演奏が再開された。

オデットはぼう然とした目でその光景を見つめた。
一体何が起こっているのか、よく理解できなかった。

このすべてが夢なのかもしれないと思っている矢先、バスティアンが遺族席の方へ向き直った。
ゆっくりと揺らめくロウソクの光の中で、二人の視線がぶつかった。

ラインがより鋭く、たくましくなったバスティアンの顔は、以前よりも大人の印象を与えた。
日焼けした肌と静かな眼差しもそうだった。
2年という時間の隔たりを実感させる変化だった。

夫が帰ってきた。

もう、その事実を否定することはできなくなった頃、
ゆっくりと近づいてきたバスティアンが足を止めた。

超然とした再会

時々、こういう瞬間を想像した。

帰ってきたバスティアンと向き合う日を。
数えきれないほど仮定してみたが、結論はいつも同じだった。

憎悪と軽蔑。
それが当然であり、それゆえに謙虚に受け入れる心の準備をしてきた。

静かな水面のようなバスティアンが与えた混乱は、だからこそ一層大きかった。
何の感情も読み取ることができない青い瞳に向けられていた視線を戻したオデットは、まず席を立ってバスティアンと向かい合った。

バスティアンが黙礼をすると、オデットもまた丁重に礼を返した。

おとなしく頭を下げたオデットを通り過ぎたバスティアンの視線は、
遺族席に座っている男の顔の上で止まった。

—— マクシミリアン・フォン・ジェンダース。

探偵の報告書にたびたび名前が挙がっていた、オデットの数少ない友人の一人だった。

夫の席に座っているとは。
思っていた以上に親しいらしい。

バスティアンは、かすかな冷笑をにじませた目でオデットを見つめた。
相変わらず、実にずる賢く、いけ好かない女だった。

その矢先、オデットが喪服のヴェールを外した。
細く長い首と、きつく結んだ唇。
整った鼻筋。

隠されていた顔が徐々に現れるにつれて、
バスティアンの眼差しはますます深く静かになっていった。

帽子の上に巻き上げたヴェールを整えたオデットは、
葬送曲の残響の中でゆっくりと顔を上げた。

図々しいほど澄んでいて超然とした青緑色の瞳を、バスティアンは喜んで見つめ返した。

レディ・オデットは、
相変わらず実に美しい容貌を保っていた。

それは、期待以上の面白さを与えてくれた再会だった。

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