🌹 原作小説『この結婚はどうせうまくいかない』第3巻9章を高解像度あらすじ形式で構成しています。
本記事は、管理人ロゼの個人的な視点による考察を含みます。
本文中の会話・台詞は、原作の表現を適宜引用しています。
全て、ずっと前から知っていた
医者の言葉を、イネスは聞いていた。
カッセルがそれを知ったのは、今夜だった。
あらすじ|火種はどこにでもある⑦-1
カッセルはラウルから、イネスを唯一快方に向かわせたペラルの医者について報告を受ける。
その医者は王室絡みの事件で処刑寸前まで追い込まれ、十年近く隠れ住む身だった。
ヴァレスティナ公爵の爵位も封土も断り、行方は掴めない。
そして報告の中で、カッセルは知る。
その医者が去り際に残した言葉をイネスがずっと前に聞いていたことを。
ねずみのように隠れて生きる医者
イネスを唯一快方へ向かわせたとされるペラルの医者は、
簡単には見つからない人物だった。
王室絡みの事件で処刑寸前まで追い込まれ、多くの者の庇護を受けて逃亡。
ヴァレスティナ公爵が爵位や封土まで申し出ても断り、十年近く身を隠して暮らしているという。
「足首でも折ってペレスに閉じ込めておけば……それだけのことだろう?」
カッセルには、本人の意思を尊重する気など微塵もなかった。
ラウルはふと思った。
——この二人は、少し似ている。
医者が最後に残した言葉
「私も閣下と同じでした。そのペラル人が、出発する前日にやっと白状するまでは」
——『自分はこの病気を少しも治したことがない』
自分の処方は、症状の一時的な緩和に過ぎなかった。
原因も、なぜ快方に向かったのかも分からない。
だから非常時のための薬を残すこと以外、してあげられることはない——それが医者の結論だった。
ラウルは目を伏せ、言葉を選んだ。
「……あんな風に、いつ突然死んでしまうか分からない女のために、不必要な責任は負いたくないとも言っていました」
カッセルは冷ややかに顔をしかめた。
まるでその医者が目の前にいるかのように、一瞬、殺気立った目で。
「イネスもそれを知っているのか?」
公爵夫妻は知らない。
知っていたのは、ラウルとフアナ。
そして——イネス本人だった。
「……自分がいつ突然死んでしまうか分からないという医者の言葉まで、イネスが聞いたと?」
「そうです」
「ああ……。つまり、全てずっと前から知っていたということか」
カッセルは顔をしかめ、静かに呟いた。
イネスは重病を隠していたわけではない。
完治したと言っても差し支えないほどだった——そう弁明しかけたラウルを、カッセルは遮った。
彼が知りたいのは、
言い訳ではなく、誠実な説明だった。
安い命ではない
「イネスはその者の言葉を聞いて、何と言った?」
「……貴方のような者が責任を取る程度の、安い命ではないと仰いました」
さらに——
「貴方も今、階段を降りる途中で私が背後から突き落とせば、5分後には生きていないかもしれないわ、とも」
……全く口では誰も叶わないな。
イネスの死が話題に上がってから硬直していたカッセルの口元が、ようやく緩んだ。
「イネス様は、その者の結論を一瞬たりとも聞き入れられませんでした。
まるで何か、お一人でご存じであるかのように……。ただ終わる時が来て、終わった、と」
「イネスは知らないことなどないからな」
もう一度たりとも
「まだ有効な鎮静剤がかなり残っています。そんなにお急ぎになることも、ご心配なさることもありません」
それでもカッセルは譲らなかった。
「そもそも、あの薬を飲むようなこと自体なくなればいいと思っている」
あの日の症状は単発的なものだった。
以前に比べれば、今のイネスはずっと健康に見える。
「もう一度たりとも、あんな風に倒れる姿は見たくない」
その時、カッセルの視線が書斎の戸口へ向いた。
「……アルフォンソ?」
短い廊下の奥から、館の執事が姿を現した。
盗み聞きをするつもりはなかった。
静かに退出しようとしたのが不手際だった——アルフォンソはそう詫びた。
「構わない。二人とも必要だったから」
アルフォンソとラウルの間に、一瞬だけ奇妙な視線が交わされた。
そして三人は、そのまま医者の捜索について話し始めた。
イネスの名前を一度も出さずに
アルフォンソはこれまで、大手商団ディバルーを通じて医者たちと接触していた。
国境を越える際には、名のある医者を何人か選び、カルステラへ連れてくる予定になっている。
しかし、肺病はもともと見つけにくい病だった。
名医と呼ばれる者の多くは、すでにペレスを訪れている。
新たに医者を集めても、大きな期待はできないという。
それでもカッセルは止めなかった。
今度はラウルだけではない。
父ではなく、カッセル自身の人間たちを動かして、ペラルの医者を探すことにした。
「アルフォンソ、効率的に段取りしろ」
三人は地図を広げ、ヴァレスティナ公爵がまだ使者を送っていない土地を一つずつ絞り込んでいった。
アルフォンソがそれを整理し、カッセルが次の指示を出す。
すべては順調に進んだ。奇妙なほどに。
イネスの名前は、一度も出なかった。
彼女を救うための話をしているのに、
まるで彼女とは何の関係もない仕事を処理するように、三人は淡々と話し続けた。
そして議論が終わると、カッセルは時計を確認した。
その瞬間——先ほどまでとはまるで別人のような顔になった。
そして、そのまま寝室へ向かった。
▶ 次の話(続き)【第9章|火種はどこにでもある】
→第9章⑦-2|あの方の肩についた埃一粒でさえ
📖 今回のエピソード対象範囲
| プラットフォーム | 対象話数 |
| ピッコマ・LINE漫画・COMICO | 第44話相当 |
| めちゃコミ | 第45話相当(推定) |