泣いてみろ、乞うてもいい|原作113話 歌わない鳥|鳥籠の扉は開いているのに あらすじ【ネタバレ】

泣いてみろ、乞うてもいい|原作113話 歌わない鳥|鳥籠の扉は開いているのに 原作カテゴリ

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🌹  本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、物語の流れと人物心理を整理しています。会話部分は原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

南の海辺で、笑いながらアイスクリームを口に運ぶ女。

眠れない夜の果てに、薬を飲み込む男。

——眠ることさえできれば。

開いたままの鳥籠の中で、
彼の鳥は、歌わなかった。

一つ、二つ、三つ、四つ

一つ、二つ、三つ、四つ。

レイラは落ち着いて数を数えながら歩いた。
広場の鐘楼から数えて四番目の路地。その一つ目の家だ。

まだこの村に慣れず、ぼんやり歩くと道に迷ってばかりだった。
幸い今日は、一度で家を見つけられた。

食料品の詰まった紙袋を両腕に抱えて、階段を上る。

ビルおじさんの親戚の紹介で借りられたのは、広場からそう遠くない住宅街の、建物の二階だった。
アルビスの小屋より狭いが、その分ずっと清潔だ。

庭も花壇もない箱のような家を、ビルおじさんはまだひどく不慣れに思っているようだった。

食料品を片付けると、レイラは再び家を出た。
路地を最後まで歩けば、水の色が美しい海と浜辺が広がっている。

盛夏の空の色

「おじさん!」

道の向こうから歩いてくるビル・レマーを見つけて、レイラの足取りが速くなった。
ビルおじさんは今週から、港の船着き場の倉庫で働き始めていた。

家にいればいいのにと言うビルに、一緒に帰ろうと思って、とレイラは笑う。
博物館の研究室の助手の面接に一度で受かり、明日から出勤することになったのだ。

「ほら見ろ。お前はどこへ行ってもちゃんとやっていけるって言っただろう。」

からからと笑って、ビルはレイラの頭を撫でた。海の匂いのする風にそよぐ髪が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。

それでも、まだ体が万全でないのだから、もう少し休んだ方がいいのではないか。
誰かが聞いたら病人だと思いますよ、とレイラは返す。
ビルは、めっきり痩せこけたレイラの顔を注意深く見て、静かに溜息をついた。

いっそ泣きわめいて辛がってくれれば、慰めようもあるのに。
こうしてにこにこ笑いながら耐えようと努める姿が、かえって痛ましかった。

家の前を通り過ぎようとするビルを、レイラは慌てて引き留めた。

分かっている、と彼は何でもないように歩き続ける。

「暑いんだ。アイスクリームでも食べようじゃないか。」

およそ彼に似合わない言葉に戸惑ったが、レイラはすぐに察した。
自分の好きなものを、買ってやりたいのだろうと。

広場のカフェの露天テーブルに、二人は向かい合って座った。
レイラの前にはバニラのアイスクリーム、ビルの前には冷たいビールが一杯。

「そのうち溶けちまうぞ、お嬢さん。」

器をじっと見つめているだけのレイラに、ビルがほほえむ。
びくりと顔を上げたレイラは、ようやくスプーンを握った。

これも食べるのが辛いかと問われて、首を横に振り、大きな一匙を急いで口に運ぶ。

「美味しいです。」

思い出したくもない顔を消し去りながら、レイラは笑った。
そして一さじ、また一さじと、ひたすら器を空にしていった。

力強く見上げた空は澄んでいた。まさに、盛夏の空の色だった。

遠い北の美しい都市にも、間もなく夏が訪れるはずだ。

堅固だった秩序の、亀裂

堅固だった秩序の亀裂は、夜から始まった。

マティアスは眠れなくなった。
日を追うごとに不眠は深まり、体は水を吸った綿のように重く、集中することさえ難しくなっていた。

普段より遅い時間に、ようやくベッドを抜け出す。
鏡に映る顔は目に見えてやつれ、痩せた分だけ輪郭が鋭くなっていた。

充血した目で自分を見つめても、もう笑いはこみ上げてこない。
無意識に漏れていた自嘲の笑みは、いつの間にか乾き切っていた。

わずか数日のことなのに、いつからだったのかさえ遥か昔の記憶のように微かだった。

静かに壊れていく日常

窓際の椅子の奥深くに身を預けると、バラの蕾をつけた庭が見下ろせた。
小走りで忙しく出勤していた女が消えた道に、春の日差しが輝いている。

平凡な朝だった。
相変わらず騒がしい世間を伝える新聞と、今日の予定を告げるヘッセンの声。

熱いコーヒー。
眩しい日差し。
そして、繰り返される報告。

「申し訳ございません、旦那様」

「探せ」

昨日も、一昨日もそうだったように、マティアスは同じ答えを繰り返した。
最善を尽くすと力を込めて答えるヘッセンの前で、頷く主人の顔からは、ひどい疲労が滲み出ていた。

静かに壊れていく主人の日常を、ヘッセンはよく知っていた。
決して表に出したがらない性分だからこそ沈黙してきたが、もう見守るだけでは済まない。

「本日ご帰宅される時間に合わせて、エトマン博士をお呼びいたします」

なぜ、と向けられた視線にも、ヘッセンは引かなかった。

「そうなさるべきです。この老いた執事のお願いです、旦那様」

まともに眠らず、食べないままでは、いつまでも持ちこたえられない。
やがてマティアスはティーカップを置いた。

「わかりました。そうしましょう」

夜、エトマン博士を迎えた公爵は、振る舞いだけを見ればいつものヘルハルト公爵だった。
だが顔は明らかにやつれ、鋭い眼光だけが奇妙に際立っていた。

精密な検査を勧める博士に、マティアスは睡眠薬で十分だと言い切った。
眠りが浅いこと以外に問題はない。眠れれば食欲も戻るだろう。

強硬な意向を察した博士は、今はまず眠らせるべきだと判断し、一歩引いた。

どこまでが本心で

薬が届いたのは、日が暮れてからだった。

ノックの音にハッとすると、明かりを点けていない寝室は、いつの間にか闇に閉ざされていた。
夕食を寝室に運ぶというヘッセンに、その必要はないと告げて、マティアスは再び目を閉じた。

立ち去る足音が、耳元でジーンと響いた。

——どこまでが本心で、どこからが嘘だったのか?

欺かれたという事実を受け入れてから、無意識のうちにそれに執着するようになった。
すべてが嘘ではなかったはずだ。そんなことはあり得なかった。
だから本心を見つけ出さなければならないのに、どうにも糸口が掴めない。

あの愛らしい顔、はにかんだ微笑みと、優しい手触り。

時にはすべてが本心のようで、時にはすべてが嘘のようだった。

その明確な区切りの線さえ見つければ、自分の人生が再び元の場所に戻っていくかのように、マティアスは必死に考え続けた。

けれど、熾烈な煩悶の終わりは、いつも虚無だった。

歌わない鳥

諦めるように目を開け、ベッドにもたれて身を起こした。

じっと暗闇の向こうを見つめてから、口笛を吹いてみた。
しかし、彼の鳥は歌わなかった。
鳥籠の扉は開いているのに、自分の巣の中に静かにうずくまったまま、沈黙するだけだった。

何度呼びかけても、同じだった。

ぼんやりとした視線が、サイドテーブルへ移る。
こんなものに頼りたくないという気持ちと、こうしてでも眠りたいという渇望が、激しく対立した。

長い煩悶の末に薬を飲み込み、ベッドにドサリと身を投げ出すと、乾いた笑みがフッと漏れた。
薬が巡るにつれて、安堵感が広がっていく。

これでもう、大丈夫になるだろうと思えた。

眠ることさえできれば。
この眠りから覚めさえすれば。

すべてが。

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