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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、物語の流れと人物心理を整理しています。会話部分は原作の表現を引用する場合があります。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。
レイラは、転がって傷のついた桃を、続けざまに二つ食べた。
マティアスは、砕け散る日の光の中へ、静かに沈んでいった。
——その涙の中に沈んで永遠に眠るのも、悪くない。
そして目を覚ました彼は、ついに見つけた。
生きるための、脱出口を。
ただ桃が何個かだけなのに
レイラは足を引きずりながら階段を上がった。
捻挫した足首がずきずきと痛むが、耐えられないほどではない。
転んだ時の膝の傷も深くはなかった。
だから、大したことはない。
そう思い込もうとしながら、玄関の扉を開けた。
着替えて家の中を片付ける間は何ともなかったのに、道端を転がって生傷のついた桃を見ると、改めて腹が立った。
これが全てなのに。
ただ桃が何個かだけなのに。
きれいに洗った桃を盆に載せて食卓に置いても、躊躇って手を伸ばせず、じっと座って見つめるだけだった。
両腕は、自転車にぶつかって倒れた瞬間のように、無意識のうちにお腹をきゅっと抱きしめていた。
幸い、新たな痛みは起こらなかった。足首と膝のほかに、痛い所はない。
安堵したあとも、レイラは動けなかった。
吐き気がするのに、実際には何も吐き出せない。
その奇妙な苦痛が、再び始まったせいだった。
体を小さく丸めて、長いあいだ食卓の前に留まる。
部屋で横になりたかったが、めまいのする状態で足を引きずって、転んでしまうのが怖かった。
その瞬間に、レイラは知った。
一時は夜も眠れないほど心を乱していた複雑な考えが、消え去っていたことを。
胃のむかつきが治まると、恐る恐る立ち上がり、台所の窓を開けた。
海の匂いのする風が吹き込んで、冷や汗の滲んだ額を優しく撫でた。
食卓に戻り、一番傷の少ない、きれいな形の桃を選んで一口かじる。
口いっぱいに広がる甘い果汁に、鼻の奥がツンとした。
その場でレイラは、続けざまに二つの桃を食べ終えた。
体を苦しめることだけ
水面に横たわって見上げた初夏の空は、平穏だった。
雲が流れ、鳥が舞い上がる。
透き通るような青い水の光も、水の跳ねる音も感触も、その中にいる自分の存在も、非現実的だった。
しばらく流れに身を任せたあと、マティアスは再び体を反転させて泳ぎ始めた。
息が切れ、体が砕けそうな苦痛が大きくなるほど、心は穏やかになっていった。
それにしがみつくように、死に物狂いで進んでいく。
マティアスが二日続けて眠り続けたあと、エトマン博士は睡眠薬を減らした。
この件については、主治医の判断が患者の要求に優先すると、厳しく言い渡して。
別の医者を探せばいいと思ったが、いざとなると、それすら面倒になった。
すでにヘルハルト公爵の健康異常説がカルスバールじゅうに広まっている中で、信頼できない医者まで引き入れて噂を広げるのも、おかしな気がした。
薬はない。
それでも、眠らなければならない。
残された選択肢は一つ。
体を苦しめることだけだった。
脱力するまで体を動かしてベッドに身を投げれば、薬を飲んだのと似た効果があることは、この数日で証明されていた。
根本的な問題
昨日の夕方、往診に来たエトマン博士は、この世で一番情けない存在にでも会ったように彼を見つめた。
十分な運動と眠り、かなり健康的な習慣ではないか。
くすくす笑いながら投げた軽口にも、博士は何も返さなかった。
「眠りは逃げ場になりえません。このような方法は正しくない。どんなに優れた医者と薬があっても、患者の意志なくしては良くなることはできません」
だから、根本的な問題が何かを直視して認めたうえで、解決法を見つけていかなければならない。
厄介事を起こす息子を前にした父親のような口調だった。
今までにないことだった。
博士が心から自分を心配しているのだと、マティアスは理解した。
エトマン博士は有能な医師で、立派な人間だった。
カイル・エトマンも、こういう人間として生きていくのだろう。
息子と同じ、善意に満ちた真っすぐな眼差しを見つめるうちに、虚脱したように笑いがこぼれた。
百回の機会が与えられても
カイル・エトマンとレイラ・ルウェリンは、お似合いの一組になっただろう。
アルビスの人々が口を揃えるその言葉を、マティアスは素直に受け入れることができた。
エトマン夫人になっていたら、レイラは幸せだっただろう。
優しい男に愛されながら、大学で勉強して。
皆に祝福される美しい夫婦として。
寂しく辛かった幼い頃をすべて補ってお釣りが来るほどに、良い人生を生きていただろう。
恐ろしくて嫌なだけの男の愛人役を務め、涙と苦痛の中でしおれていく代わりに、眩しいほど幸せな人生を送ることもできたはずだった。
けれど、後悔がないことが、マティアスをさらに狂わせた。
あの日に戻ったら、別の選択をするだろうか。
——いや、まったく。
百回の機会が与えられても、同じ選択をするだろう。
そういう人間だった。
エトマン父子のような高邁な人格など、彼にはなかった。
他の人々の前ではせめて真似事くらいはできたが、レイラの前では、それさえ不可能だった。
他の男の女になって幸せになるのを見るくらいなら、自分が手に入れて壊してやる。
さもなければ、いっそ殺すかだ。
それなのに、根本的な問題?解決法?
マティアスはふっと笑って、答えに代えた。
——レイラを永遠に失った。
クロディーヌのその言葉が、それほど衝撃だったわけではない。
既に知っていた。
骨身に染みて分かっていることを、他人の口から聞かされたに過ぎなかった。
レイラを探す資格がないというカイルの一喝も同じだった。
よく分かっている。
分かっているのに、どうしようもないのが恐ろしいだけだった。
記憶の神殿
疲れ果てた体が動かなくなり、マティアスは荒い息をついて水面から顔を出した。
随分痩せても、依然として強靭な濡れた体が、日差しの中で輝いた。
不快なら、信用できないなら、他の医者を紹介する。
けれどこのままではいけない、もう放っておくことはできない。更に深い憂慮を込めた博士の言葉に、マティアスはぼんやりと微笑んで首を横に振った。
エトマン博士より優れた医者がいるとは思えなかった。
何より、この世界の誰を連れてきても、何も変わらない。
それがレイラでない限りは。
さもなくば、神でもない限りは。
療養地へ環境を変えてみてはという最後の提案にも、考えるまでもなく首を振った。
別棟に移ってきたから、せめてこの程度は耐えられているのだ。
すべてがレイラの記憶で満ちている場所だから。
たとえそこにいたレイラが、いつも泣くか、恐れに震えるか、それすら手放した深い絶望の中で彼に耐え忍んでいただけだとしても。
マティアスにとっては、崇拝したい記憶の神殿だった。
信仰という虚像に囚われて生きる者たちが、理解できる気さえした。
今の自分の姿も、していることも、狂信者と何ら変わりないのだから。
レイラの涙のような光
もう帰らなければ。
ぼやけそうな意識を保ちながら振り返っても、体はまた無意識に動き出していた。
全身の筋肉が切れてしまいそうなのに、止まらない。
本当は、恐ろしかった。
止まれば浮かび上がる考えと、時間が経つほど鮮明になるレイラの記憶が。
それがなければ生きられないのに、それがまた息の根を止めるのだ。
苦痛に歪んだ顔に自嘲がよぎる頃、曇った視界に、川岸の大きな木が入ってきた。
レイラが好きで、時々登っていたあの木だった。
日差しの中で煌めき、なびく金髪が見えるようだった。
幻影だと知りながら幻影を見るのは、極めて悲惨で、同時に甘美なことだった。
虚脱して笑い、マティアスは流れに身を任せて目を閉じた。
穏やかな水の流れのように続いてきた生活は、もうない。
残っているのは、深く淀んだまま静かに腐っていく時間だけのようだった。
だとしたら、何のためにもがくべきなのか。
体が沈んでいくのを感じても、逃れたいという意志は生まれなかった。
水の跳ねる音さえ止んだ、完璧な水中の静寂の中で、マティアスは捨てられた小屋で見たレイラのノートを思い浮かべた。
そこにあったのは、自分にとって厳しいだけだった世界を一貫して愛し、最善を尽くして生きてきた、一人の人間の生活だった。
けれど、その生活はもうない。
彼が、壊してしまったのだ。
そっと目を開けると、水面はいつの間にか遠ざかっていた。砕け散る日の光が美しかった。
まるでレイラの涙のようだと思った時、あの女を失った日以来初めて、マティアスは穏やかに微笑んだ。
その涙の中に沈んで永遠に眠るのも、悪くないと思えた。
それが、彼の覚えているその午後の、最後の瞬間だった。
戻ってきたのか
再び目を覚ました時、最初に視界に入ってきたのは、驚くべきことにレイラだった。
二人が共に迎えた最初の朝のように、傍らに寄り添って横たわり、じっと彼の顔を見つめている。
——戻ってきたのか。
そう口にしたかったのに、声が出なかった。
代わりに、あの日のように手を伸ばして、そっとレイラの顔を包み込む。
見つめ合う眼差しが深く絡み合うほどに、レイラの澄んだ瞳は美しく輝いた。
「レイラ」
その名を囁こうと唇を開いた瞬間、マティアスは悟った。
レイラはいないのだと。
幻影が消えたあとに残ったのは、日差しが長く差し込むベッドに、情けない姿で横たわる自分だけだった。
「お目覚めになりましたね」
安堵の溜め息をつくエトマン博士だった。
従者たちが川で見つけていなかったら、大変なことになっていた。
叱るような口調で、博士は昨日の出来事を語った。
つまらない、ありきたりの話だった。
自分の体一つ支えられずに溺れ、死ぬことさえできずに生き返り、主治医の小言を聞かされている情けない人間の話。
その間もマティアスは、先ほどの美しい幻影だけを思い浮かべていた。
あの日、互いを深く見つめ合ったあの瞬間も、嘘だったのだろうか。
そう考えると、再び水の中に沈んだような、呆然とした気分になった。
自分の力ではどうにもならない現実の前に放り出された、子供になったようだった。
「君との終わりを知らない、このままではどうしても生きることができない私は、一体どうすればいいんだ」
脱出口
博士の声は聞こえても、その言葉は耳元で無意味に散っていくだけだった。
首を絞められているような恐怖に襲われて、マティアスは狂ったように考え、考え、考え続けた。
死んだカナリアが頭に浮かんだのは、開け放した窓の向こうから鳥たちの歌声が聞こえてきた時だった。
身を起こし、細めた目でそちらを見つめる。
レイラの幻影を見るように、彼はしばしば、死んだカナリアの歌を聞いた。
けれどそれは、何とか耐えられた——鳥は死んだのだから。
その明確な事実が、脱出口になっていた。
そうだ。
そうなのだ。
暗闇の中に微かな希望の光を見つけたように、胸が高鳴り始めた。
——永遠に失って取り戻せないのなら、いっそ殺すしかない。
ついに生きる道を見つけたという喜びに、胸が高鳴った。
笑みがこぼれた。
青白い顔に浮かんだ異様な微笑に、エトマン博士はそれ以上言葉を続けられず、ごくりと唾を飲み込んだ。
電話のベルが鳴り始めたのは、その時だった。
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