泣いてみろ、乞うてもいい|原作69話 恩人|『最愛の僕のレイラへ』 あらすじ【ネタバレ】

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🌹 本記事は『泣いてみろ、乞うてもいい』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。本文中の会話・心理描写・印象的な表現については、原作の表現を適宜引用しています。
ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

約束

「約束……」

余韻の中にいたマティアスを引き戻したのは、レイラのか細い囁きだった。
顔を上げると、ただ彼だけを見つめる緑色の瞳があった。

痛いほど強く髪を握りしめていた手で、まだ赤い頬を包み込む。

「善処の約束は、必ず……」

荒い息の間から途切れ途切れに吐き出される言葉の意味を理解して、
マティアスは虚脱した失笑を漏らした。

——こんな瞬間でさえそれが切実な、愛らしい女。

不思議と、そんなに嫌ではなかった。
目的が何であれ、彼を満たしている澄んだ瞳は宝石のように美しかったから。

黙って見下ろしていると、
レイラは床に垂れていた手を辛うじて上げ、彼の腕をぎゅっと掴んだ。

もう少し遅れたら泣き出しそうな顔だったので、
マティアスは根負けしたふりをして頷いてやった。

するとレイラはため息をつき、ぽつんと手を放した。
その手が床に触れる前に、まぶたも閉じた。

残されたのは、依然としてレイラを見つめているマティアスだけだった。

——もう一度だけ。

自分でも理解できない思いを込めた息を吐き、彼は長い間その顔を見守った。

しかし、変わるものはなかった。
背けた顔と、固く閉じた目に見つけられるのは、ただ頑なな拒絶だけだった。

再びフッと笑ったマティアスは、髪を力いっぱい鷲掴みにして引き寄せた。

痛みに怯えた眼差しと、冷ややかな眼差しが一点で激しくぶつかり合う。

急襲するように、唇が下りた。

——まずまず公平な取引だった。

消せない痕跡

目覚めた時には、部屋中が明るい光で満たされていた。
悪夢ではなかったのかという期待は、体に残る痕跡と痛みが即座に打ち消した。

別邸から戻った時の姿のまま、倒れ込んで眠っていた。
今すぐ痕跡を消したいのに、指先一つ動かす気力もない。

意識を失わずに小屋まで戻ったことが、昨夜できる最善だった。

手の跡や血痕に覆われた自分の体を見下ろし、レイラはぞっとして起き上がった。
全身が砕けそうに痛む。
その痛みが呼び起こす記憶に、何度も目元が赤くなった。

——大したことじゃない。

体を洗って、また洗って、
懸命に心を鎮める。

結局、大したことではなくなるはずだ。

決してそうはならないと知っているからこそ、
レイラはより必死にその自己欺瞞にしがみついた。

何か食べて、気力を取り戻して、
ビルおじさんに会おう。

飲み込めそうにない食べ物を、水で無理やり押し込む。

最後のパン一切れを飲み込んだ後、
食卓の端に置かれた手紙の束を見つけた。

手に取った時はまだ穏やかだった表情は、やがて茫然となった。

——カイルの手紙だった。

何度見ても間違いない筆跡。
すべて、カイルの手紙だった。

凍りついたように束を抱えていたレイラは、震える手で一番上の封筒を破った。

——『最愛の僕のレイラへ』

過ぎた秋の初めに送られた最初の手紙は、そう始まっていた。

警察署の視線

「感謝いたします、公爵様。本当に、何と申し上げたらよいか分からないほど感謝いたします」

釈放されたビル・レマーは、赤く火照った顔で何度も頭を下げた。
数日でやつれてはいたが、希望を取り戻した瞳には再び光が宿っていた。

「レイラ!」

力強い声が警察署に響く。
その場の視線が一斉に入口へ向かい、駆け込んできたレイラを捉えた。

「おじさん! これは一体どういう……」

養父の姿を見つけた顔に、感極まった笑みが咲く。
だが、公爵と目が合った瞬間、その笑みは消えた。

「おめでとう、レイラ。公爵様がレマーさんを善処してくださったんだよ」

「……はい」

昨夜の記憶などきれいに消し去ったように、マティアスの眼差しは超然としていた。

「本当に感謝いたします、公爵様」

レイラは深く頭を下げた。
それでも、血の気を失った手の震えまでは隠せない。

誰もその不自然さを気に留めなかった。
ただ一人、ヘルハルト公爵を除いては。

——虚勢を張るつもりなら、まずあの震える手から隠す方がいいだろうに。

その小さな手をちらりと見て、マティアスは短い失笑を漏らした。

弁護士だけを送れば済むことに、わざわざ自ら足を運んだ理由。

もちろん、あの女——レイラ・ルウェリン。
彼の生意気な愛人だった。

逃げた女

——別邸が静寂を取り戻した頃には、
レイラも、マティアス自身も、見るに堪えないほど乱れていた。

血の跡で汚れたシャツ、ちぎれたカフスボタン、汗で濡れた髪。
その有様になるまで床で夢中になった自分を、彼は自嘲しながら体を起こした。

レイラは体を丸めてカーペットの上に倒れていた。
膝の下までずり落ちたストッキングと靴が、身に着けたすべてだった。

寝息が、薪の燃え尽きる音の間に微かに聞こえた。
意地っ張りに背を向けて顔が見えないことが、むしろ幸いだった。

跡が残りやすい体だということが、かなり気に入った。

名前を呼ぼうという気持ちを変え、
焦りを含んだ手つきで煙草を咥えたが、火をつけるところまで考えが至らない。

微動だにしない背中が、神経を逆撫でする。

その気になれば片手一つで引き寄せられる。

だがマティアスが望むのは、それではなかった。
応接室から寝室までのわずかな距離さえ我慢できなかった自分が情けなく、眉間に皺が寄った。

無理にでも起こす決心をして立ち上がったが、
結局触れることはできなかった。

一歩踏み出す足音だけで、レイラは硬直して凍りつく。
それでも最後まで振り返らない凄まじい意地に、彼は声を出さずに苦笑した。

ジャケットを、震えている背中の上にポンと放り投げる。

レイラは大きくびくついたが、やはり顔を向けなかった。

一体、踏み躙られ侮辱されているのがどちらの方なのか、
見分けがつかないほどだった。

シャワーを終える頃には、一度なだめてみようかという気持ちにさえなっていた。

だから、がらんとした応接室に向き合った時の当惑はいっそう大きかった。

——レイラが、勝手に逃げ出した。

隅々まで探しても見つからない現実の前で、
彼はその屈辱的な結論を受け入れるしかなかった。

引きちぎられたボタン数個。
汚されたカーペット。
数本の金色の髪。

それがレイラの残した唯一の痕跡だった。

ウィングチェアにきちんと掛け直された自分のジャケットを見た時には、
皮肉な笑みさえこぼれた。

凍てつく未明の森の道を、
あの体で、ボタンのない前を手で押さえて走り去る姿が鮮明に描かれた。

——そうするほどまでに、彼の傍が嫌だったであろう心までも。

昨夜追わなかったのは、自分の忍耐が限界だと知っていたからだ。
もし再び会っていたら、良い対応はできなかっただろう。

今、目の前にしてみて、その判断が正しかったという確信が持てた。

時間が経った今も、独り残された昨夜と同じ気分になるのを見れば。

睨みつける女

「本当に大きな決断をしてくださいました、公爵様。
やはり広く尊敬されるヘルハルト家の主人らしいです」

警官の感嘆が、マティアスの意識を現実へ引き戻した。

適切な謙遜で会話を終え、彼は警察署を後にする。
ビル・レマーとレイラ、警官たちまでが列を作って続いた。

「公爵様、このご恩は決して死ぬ日まで、いえ、死んだ後でも決して忘れません」

再び頭を下げるビルに淡々と答えながら、
マティアスは庭師の傍に立つ自分の女を短く観察した。

美しく輝く目で、レイラもまた彼を見た。

——「睨みつけた」と言った方が、はるかに適切だろうが。

「アルヴィスでまた会いましょう」

短い挨拶を最後に車へ乗り込む。
最後の瞬間まで、レイラは作り笑い一つ見せなかった。

窓から視線を外したマティアスの口元が、優しく弧を描いた。

あの女が自分の前でめちゃくちゃに乱れる姿を、彼は必ず見るつもりだった。

恩人

「ずっとここで暮らすってどういうことですか? どうやって?」

「公爵様の配慮のおかげさ」

喜びを隠せない顔で、ビルはレイラの頭を撫でた。

今までどおり狩猟地の小屋で暮らし、アルヴィスのために働くことを許された。

恥を知る身だから当然断ったのだと、ビルは言う。
あんな事故を起こして、前と変わらず働けるものかと。

「そうしたら公爵様がこう仰るんだ。
私が壊した温室を前のように復旧させる手助けをすることが、一番大きな贖罪ではないかと。
アルヴィスの天国を造り上げたのが私なのだから、その天国を取り戻す人も私のようなものだとも言ってくださってね」

改めて考えても感激の言葉に、ビル・レマーの目元が赤くなった。

刑務所に行くと思った数日は、生き地獄も同然だった。
自分の身を滅ぼす恐れよりも、レイラを独り残す罪悪感に苦しんだ日々だった。

「大奥様は喜んで許してくださったそうだし、奥様も結局公爵様の説得に同意してくださったそうだよ。本当にこのすべてが全部公爵様のおかげだから、私たちにとっては恩人だ、レイラ」

——恩人。

あの残忍な男と最も似合わないであろう言葉に、レイラは不意に目眩を覚えた。

決してビルおじさんに気づかれてはいけない。

その決意を繰り返して辛うじて心を抑えつけたが、不安げに打つ鼓動まで鎮めることはできなかった。

「数十年の歳月を捧げた場所だからか、このアルヴィスの庭園と温室はまるで私の体の一部のようだ。それを他ならぬ私が壊してしまったことが、拭えぬ罪悪感として残るところだった」

「はい、おじさん」

震える声を隠せそうになく、レイラは簡潔に答えた。

正門の前で、ビルはレイラの肩をそっと抱き寄せた。
やつれていた顔には、いつの間にか活気が戻っていた。

集まってきた使用人たちのおかげで、レイラはそっと息を吐くことができた。
そして、まるで精巧で美しく作られた鉄格子のようなアルヴィスの出入り口を、じっと見つめた。

ぼんやりとした瞳の中で、
金色の紋章が華やかに輝いていた。


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※本記事は結末までのネタバレを含みます
泣いてみろ、乞うてもいい 結末ネタバレ|全体の流れと結末整理


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