失われた未来⑤|95話 原点 ─ 雨の出発と、本来の軌道

失われた未来⑤|95話 原点 ─ 雨の出発と、崩れ落ちた寝室 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作95話をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。
会話部分は原作の表現を引用しています。

海軍祭から一週間が過ぎた。

夜明けの雨の中、バスティアンはアルデンヌを発った。

使用人たちは沈んだ表情で見送り、
オデットは夫が去っていった道をひたすら見つめた。

別れの朝

玄関ホールに並んだ使用人たちの表情は、一様に沈んでいた。
昨夜から降り始めた雨が、邸宅の雰囲気を一層重苦しくしていた。

淡々とした別れの挨拶を残したバスティアンは、ためらうことなく待機中の車に乗り込んだ。
危険な任地へ赴く軍人とは思えない姿だった。

どうしてこんな結末になったのだろうか。

ロヴィスは深い疑問を込めた眼差しでオデットを観察した。
ローザンヌから戻ったバスティアンは、予定通りに出国の準備をするように命令を下した。
変更についての言及はなかった。

邸宅を騒がせていた賭けは、勝者なく幕を下ろすことになったわけだ。

二人はもう同じベッドを使っていなかった。
出国を翌日に控えた昨夜も、それぞれ自分の部屋で眠りについた。
長い別れを前にした夫婦というよりは、礼儀正しい他人に近い姿だった。

「お体の調子が悪いようです。クラーマー先生をお呼びしましょうか?」

静かに後からついてきたドーラが、声を落として尋ねた。

「大丈夫よ、ドーラ。少し疲れているだけだから。休めば良くなるわ」

もっともな言い訳をしたオデットは、ゆっくりと階段を上り始めた。

寝室で崩れ落ちた

これで全て終わった。

寝室の前にたどり着くと、ようやくその事実が実感として湧いてきた。

バスティアンが去った。
彼が戻る頃には皇帝との契約が成立しているだろうから、
この結婚は今日で終わったも同然だった。

鍵をかける音がカチリと響くと、言葉にできない感情が津波のように押し寄せた。

残されたのは、予定された没落を待つことだけだった。
それでも、ティラは守った。

オデットは、最後に残ったその一つの矜持の力で、乱れた心を落ち着かせた。

よかった。

一歩踏み出すたびにそう思った。

よかった。本当に、よかった。

呪文を唱えるように。

だが、結局拭い去ることができなかった思考の重みに押しつぶされたオデットは、進むことなく力なく崩れ落ちてしまった。

足がふらつき、視界がぼやけた。
再び意識を取り戻したとき、オデットは床にへたり込んでいた。

バスティアンと過ごしてきた日々が、雨が降る海の上を通り過ぎていった。
裏通りの賭博場で初めて出会った日から、素っ気ない口づけを最後に別れた今日に至るまで。

決して良い縁だとは言えないが、
それでも決して悪くはない日々だった。

今となってはすべて無意味なことになってしまったが。

マルグレーテと、残された責務

周囲をうろついているマルグレーテの存在に気づいたのは、
ようやくまともに息ができるようになった頃だった。

オデットと目が合うと、マルグレーテはさらにせわしなくなった。

せっせと尻尾を振って飛び跳ね、
また戻っては、床に手をついているオデットの手の甲を舐めた
悲しげにクンクンと鳴く声は、まるで子どもの泣き声のようだった。

絶対的な信頼が込められた子犬の瞳と向き合うと、苦笑いがこぼれた。

「大丈夫よ、メグ」

オデットは不安に震えている子犬をそっと抱き上げた。
優しく撫でる手つきの下で、マルグレーテは次第に落ち着きを取り戻していった。

マルグレーテが静かになると、ガラス窓を叩く雨音がさらに鮮明に聞こえてきた。

自ら選択した結果だった。
そしてオデットには、まだ残された責務があった。
ここで諦めたら、これまでの努力がすべて水の泡となってしまうだろう。

そんな結末を容認することはできないと結論付けたオデットは、
落ち着いてマルグレーテの涙を拭いてやった。

歪んだレースの襟とリボンの形もきちんと整えた。
たちまち再び元気になったマルグレーテは、せっせと尻尾を振りながらオデットの顔を舐めた。

いろいろな点で、ティラに似ている子だった。

オデットはきれいになったマルグレーテを腕に抱き、立ち上がった。

原点へ

出陣式は簡素に行われた。
勢いを増している悪天候のせいだった。

バスティアンはレインコートの襟を立てて、雨の中へ入っていった。

輸送船は北海艦隊の追加兵力で賑わっていた。
彼らに同行する家族の数も少なくなかった。
ほとんどが若い夫人と幼い子どもだった。

船首の甲板の端に近づいたバスティアンは、
陰鬱な青灰色の雲に覆われた街の向こうを見つめた。

かすかな明かりが輝いていた。

大観覧車。
オデットが夢見るように眺めていた、まさにその乗り物だった。

バスティアンは無感動な眼差しでその風景を見つめた。

猛毒のような激情と怒りは、もう残っていなかった。
結局、これほど簡単に萎んでしまうような感情に巻き込まれて道を見失ったという事実がただ虚しいだけだった。

変わったことはない。

ローザンヌから戻ったバスティアンは、すぐにラッツへ行き、会社の仕事を片付けた。
失敗に終わった計画をすべて白紙に戻した。
丹精込めて準備した罠だっただけに損失は大きかったが、現時点ではそれが最善の解決策だった。

まずは後退し、再整備の時間を置く予定だった。

そうして、再び原点に。

少し遠回りすることになっただけで、目的と手段はそのままだった。

オデットはもはや考慮の対象にはならなかった。
適当に利用した後に片づけてしまえばいいだけの存在。

その女の意味も、元の場所に戻った。

出航を知らせる力強い号令が響き渡った。
輸送船は豪雨の中を航海し始めた。

バスティアンは、遠ざかる街を背にして振り返った。

最後に見たオデットの顔が、視界を曇らせるほど太くなった雨粒の上に浮かんだ。

「お気をつけて行ってらっしゃい。待っていますから」

よくもあのように平然と挨拶をして……。
オデットは笑った。

いつもそうだったように──美しく。
夫を愛する妻のように。

奇襲的に訪れた彼女の記憶を、バスティアンはあえて否定しようとしなかった。
淡々と受け入れ、やがて流し去った。

開いた跳ね橋の下を通過した輸送船は、急速に速度を上げていった。

じっと閉じていた目を開けたバスティアンは、
落ち着いた力がこもった足取りで、雨風が吹き荒れる甲板を横切っていった。

本来の軌道に回帰する航海の始まりだった。

📖 前の記事
失われた未来④|94話 まだだ ─ 花火の下で、最後のキス

📖 次の記事  
失われた未来⑥|第96話|(※更新予定)


【免責事項】

※翻訳方針については当サイトの翻訳・引用ポリシーをご確認ください。
※本記事は作品のテーマを考察するものであり実在の行為を推奨・肯定する意図はありません。
※作品の引用・翻訳は著作権法の範囲内で行い、引用元を明記しています。
※本記事は作品内容の分析・評論を目的としたものであり、原作の翻訳全文を掲載するものではありません。