泥の中の愛57|165話 廃墟の上で ─ 崩れた父の世界と、妻が残した庭

バスティアン|泥の中の愛57|165話 廃墟の上で ─ 崩れた父の世界と、妻が残した庭 原作本編

🌹 本記事は『バスティアン』原作をもとに、高解像度あらすじ形式で構成しています。会話部分は原作の表現を引用しています。
※ネタバレ注意:ここから先は、重大なネタバレを含みます。

父の屋敷の取り壊しが行われ、
長年の復讐がついに完遂される日。

バスティアンが目にしたのは勝利ではなかった。

見世物になった崩壊

ジェフ・クラウヴィッツの世界は、バラが満開の季節に崩れ去った。

噂を聞きつけた見物人がアルデン湾に押し寄せる中、
当のバスティアンは現場を訪れなかった。

普段通り海軍省に出勤し、決められた時間に退勤した。

アルデンヌへ向かう帰り道。

海はきらめく日差しに沈み、風にはかすかなバラの香り。
春と夏の間にある、美しい季節の夕方だった。

双子の屋敷が見える地点で速度を落とすと、父の世界はすでに8割ほど取り壊しが進んでいた。

爆音とともに巨大な砂煙が立ち上る。
海岸線に並んだ自動車と日よけテント、オペラグラスまで取り出す見物人たちに、バスティアンは失笑を漏らした。

——それほどまでに興味深いことなのか?

ついに父から最後の代償まで取り立てることになったが、これといった感慨はなかった。
オデットが去った日から続いていた虚無と疲労感も、跡形もなかった。

——『お前は何を手に入れたの?』

テオドラの嘲笑が耳鳴りのように回り始めた頃、屋敷への進入路が現れた。

まだ完全な終わりを見ていないせいかもしれない。
淡々と結論を下し、バスティアンはハンドルを握った。

最後の爆音が止んだアルデンヌ湾には、いつもと変わらない平穏が宿っていた。

晩鐘と、マリー・ヴェラーの日々

オデットはいつもより遠くまで散歩に出た。
麦畑を過ぎ、野原へ、丘へ。
ベンチに座って麦わら帽子を脱ぐと、夕方の祈りを告げる礼拝堂の鐘が鳴り始めた。

——アルデンヌの夕方も、こんな鐘の音とともに訪れた。

この時間になると、屋敷の車道が見える窓の前をうろついたものだった。
高揚感であり、恐怖であり、結局は悲しみで幕を閉じた、待ちわびた時間。

もうやめておこう、と胸の内の思いを消して、オデットは立ち上がった。

長い距離を歩いても、以前のように疲れなくなった。

体は徐々に回復している。
だから、いつか心も元の場所に戻るだろう。
——おそらく、夏が過ぎる前には。

村に入ると、小川の向こうから声がかかった。

「こんにちは、マリーさん!明日の約束、忘れてないでしょう?」

学校教師の妻だった。
村の若い女性たちが順番に開くティータイムの集まりに、少し前からオデットも呼ばれるようになった。
まだ黙って耳を傾けて帰るばかりだが、それでもオデットはその集まりが好きだった。

「はい。クッキーを少し焼いて持っていきますね。本も全部読んでおきました」

三児の母である彼女が、一歳の末娘を連れて去っていく。
その母娘の姿を長く見つめていたオデットは、微かに微笑んで歩き出した。

——健やかに育っていたなら、夏とともにこの世に生まれていただろうに。

儚い想像の流れのままに、バスティアンが思い浮かんだ。

もし子供が無事に生まれていたら、今の私たちはどうなっていただろう? 
役に立たない疑問を自嘲するうち、家が近くなった。

窓から漏れる温かい明かり。
明かりの消えた家に戻るのが嫌で、前もって照明を点けてから散歩に出ていた。
燃料の浪費と分かっていても、しばらくは続けるつもりだった。

心の傷が癒える日が来たら、止められるだろう。
おそらく夏が過ぎる前には。

マリー・ヴェラー。

村の人々はオデットをそう記憶していた。
薄っぺらな嘘の後ろに永遠に隠れてはいられない。

それでも離婚が完了した後もしばらくはここに留まり、自分の人生の主人となる方法を学びたかった。

夢の中の散歩

とぼとぼと歩く足音が、暗闇に響いた。

両目は開いているが、焦点はない。

虚ろな青い瞳は、ガラスのビー玉のようだった。
素足のまま玄関を出たバスティアンは、月明かりの下、夜が更けるまで森をさまよった。

白金色の髪は乱れ、素足には生傷。
泥水にパジャマが汚れても、動揺ひとつ見せなかった。

夢の中の奇妙な散歩は、庭にたどり着いて終わった。

焦点が蘇る。

汚れた素足、夜の庭、天井があるべき場所に浮かぶ白い月。

ソファでうっかり眠ってしまい、手首を縛っていなかったのだ。
この病気を初めて認識した幼い頃の夜のように、心は静まり返った。

——「僕は壊れてしまったんだな」

妻の庭

その時、風が吹いた。

夜気に乗って舞い上がる、新鮮で甘い香り。

どこを見ても花。
あたり一面が、花で揺らめく波だった。

自分が庭の真ん中に立っていることに、バスティアンは今になって気づいた。

この庭の造園にオデットが特に力を入れている——トロサ島で読んだロビスの手紙が蘇る。

——『次の春には、奥様と共に美しい庭園を鑑賞することができるでしょう』

あの頃のバスティアンは、その言葉を笑い飛ばすことができた。

時間が経てば、すべて薄れていく。
そう信じていたから。

愚かな傲慢だった。

冬が去り、春が来て、夏が来る境目に立っても、
オデットの記憶は薄れなかった。

永遠の現在として留まり、彼の人生を支配していた。

この世には、時間さえも打ち破ることができない心がある。
バスティアンは、今ようやくそれが分かった。

自分が帰ってくる次の春、
おそらく自身はもうここにはいないであろうオデットが、
それでも彼のためにこの庭を残そうとした意味も。

——愚かな君が残していった贈り物は、こんなにも美しく、僕の胸を引き裂く。

廃墟の上で

赤くなった目をそらすと、海の向こうには粉々に砕けた父の世界があった。

そして、この瞬間のために尽くしたすべての努力は、
彼自身の世界までも崩壊させていた。

——『でもバスティアン、お前は何を手に入れたの?』

再び訪れたテオドラの幻聴が、バスティアンを笑わせた。

廃墟の上で、廃墟を見る。

完全な終わりに至って向き合ったのは、
互いを映し出す二つの廃墟だった。

望まぬ富と栄光の中に、一人取り残された男。
まるで継母の呪いが、そのまま現実になったかのように。

だとしたら、もう残されたものは、
毎朝目を覚ますたびに敗北する人生なのか。

月光の流れる庭を見つめるバスティアンの眼差しが深くなった。

——違う。

答えを見つけるまでに、長い時間は必要なかった。

傷ついた日々のまま成長できなかった子供は、
父の世界とともに崩れ去ったのだ。

バスティアンは、廃墟に別れを告げるように背を向けた。

そして淡々と、
妻が残した庭を横切って歩き始めた。

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