宴が終わった夜から、エスカランテ邸で大規模な摘発が秘密裏に始まっていた。
名目は「宴の騒ぎに乗じた一家への毒殺未遂」。
実態は、イネスへのパノテ投与の経路を辿るための、極秘の一週間だった。
アルフォンソとラウルが使用人たちの間に密告の網を張り、
やがて厨房の、まだ幼い下女・レイラの寝室の床下から最初のパノテが発見された。
ネタバレ注意
ここから先は、重大なネタバレを含みます。
第16章「川はみな海に注ぐが、海は満ちることがない」④|あらすじ
レイラとリンゴ一つ
連れてこられたのは13歳の侍女だった。
イネスは尋問を傍観しながら、ある記憶を思い出した。
以前、ダイニングルームでリンゴを盗んでいるところを見つけた子。
叱るでもなく、どうせ盗むなら両手いっぱいにしなさいと言い、もう一つ持っていくよう勧めた。
あの時、度を越した感謝と不審な瞳を向けていた子だった。
やがてレイラは打ち明けた。
母の薬代のために受け取り始めたこと。しかし実際には、渡された薬をほとんど使わずにいたこと。
「耐えられませんでした。そんなセニョーラを害したがっている人からお金を受け取ったということが。」
「お前の罪は、何としてもお前の監視役にすべて着せてあげるわ」 (引用:原作6巻)
実はほとんど届いていなかった
調査の結果、驚くべき事実が明らかになった。
レイラだけでなく、別の若い侍女ベロニカもまた、
早い段階から「薬を入れたふりだけしてお金をもらう」ことを考えていた。
13、14歳の子供たちが、
最も操りやすく、最も疑いを持たれない対象として選ばれていた。
食事を通じてイネスの体に入ったパノテは、せいぜい6、7回ほど。
想像していたほど、毒は届いていなかった。
幼い頃から、実母・オルガは「妊娠に良い薬」として様々なものを飲ませ続けてきた。
飲んだ日もあれば、拒んだ日もある。
どの人生でも繰り返されてきた、その長い曖昧な積み重ねに比べれば、今回の量はほとんどないに等しかった。
すでに損なわれた部分はどうしようもない。
しかし少なくとも、これからは食べ物から逃げ回る必要はなくなった。
イサベラとイネスの日々
しかし「何でも食べられるようになった」というイサベラの期待とは裏腹に、
イネスの身体は、変わらずほとんどの食事を受け付けなかった。
匂いを嗅ぐだけで忌まわしいものが大半で、
イサベラが自ら用意させた、上質な料理が次々と運ばれてきても同じだった。
汚がる素振りもなく湿った布でイネスの口元を拭うイザベラの手は、
幼い娘をあやすようだった。
当のイネスは、幼少期のいかなる時も——どの人生においても、
母親からこのような扱いを受けたことはなかった。
戸惑いはした。
けれど、もう拒む気力も残っていなかった。
イサベラは言った。
イネスのお腹の子が気難しく食を拒むのは、カッセルに似ているからだと。
私も、カッセルにはリンゴだけで丸一ヶ月過ごさせられたことがあるのよ、と。

「間違いなくカッセル、あの子に似たのね」
そして実母オルガの話を、通りすがりに何気なく口にした。
イネスは母親のお腹の中では些細な苦労もかけない子だったと。
だから今の苦労はひとえに自分の息子のせいなのだろう。
皮肉なことだった。
実母よりも義母の方が、本物の母娘のように温かかった。
カッセルに似た子たち
アンヘリカは言った。
ひどい”つわり”は母体と胎児を守ろうとする強い作用で、
むしろ流産になりにくい見込みが高いと。
イネスはわずかに膨らんだお腹をそっと撫でた。
カッセルに似ているのなら、
きっと、今すでに自分を守ってくれているのかもしれない。
健やかな子たちよ
自分に似たら、さぞかし性質(たち)の悪い子たちだろうと思っていたのに、
カッセル・エスカランテに似ているのだと思うと、すでに守られているような気がした。
「あなたたちに似て、とても健やかな子たちよ。確信しているわ、イネス」
(引用:原作6巻)
生まれる前から、すでに毒に耐え抜いた子たちだった。
イザベラの確信が、自分の中にも宿ることを祈りながら、
イネスは小さくリンゴを噛み、静かに笑った。
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📖「6巻の読み方はこちら」
→6巻以降の読み方ガイド
※本記事の人名・地名は原作ベースの仮訳です。今後の公式翻訳により表記が変更される可能性があります。