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縛られた手首
情事が終わった時、レイラは荒い息を吐く以外には何もできないほど疲弊していた。
だから、公爵が何をしようとしているのか気付くことができなかった。
手首が縛られているという事実に気付いた時、レイラの目は呆然と見開かれた。
タイで手首を縛り、その端をベッドの柱に結びつけたマティアスは、
気怠い微笑を浮かべて静かに告げた。
「静かにしていろ、レイラ。動くと結び目が締まるぞ。」
悲鳴を上げる気力も残っていないレイラに、マティアスは枕を頭の下に敷いてやり、掛け布団を引き寄せてやってから浴室へと向かった。
少なくとも彼が体を洗う間、レイラが逃げ出すことはできない。
ただそれだけの理由だった。
初めての憎しみ
シャワーを終えたマティアスが戻ると、レイラはひどく皺くちゃになったシーツの上にぐったりと横たわっていた。
どれほどもがいたのか、枕も床へと投げ捨てられていた。
手首を固く締めていたタイを解くと、鮮明な赤い跡が残っていた。
「動くと痛くなると言っただろうに。」
温かい蒸しタオルでレイラの体の至る所に残った跡を静かに拭いながら、マティアスの手つきには欲望の残滓など微塵も残っていなかった。
その徹底した無感情さが、レイラを一層恥ずかしくさせた。
自分のガウンでレイラの体を包んで胸に抱き上げると、
マティアスはウィングチェアに戻り書類の検討を再開した。
「……憎い。あなたが、本当に憎いです。」(引用:原作74話)
眠ったと思っていたレイラが、持てる限りの力を振り絞って囁いた。
今まで誰も憎まなかった。
自分を捨てた母も、鞭打ちした親戚たちも。
空にして、また空にして、骨の髄まで空っぽにして飛ぶ鳥たちのように、
レイラも生きるために憎しみを空にしてきた。
しかしこの男だけは憎かった。
その憎しみが岩のように重く踏み出す一歩が辛くなるとしても、心を込めて、喜んでこの男を憎みたかった。
「憎い。あなたが憎い。憎い。」(引用:原作74話)
何度も囁きながらレイラは意識を失った。
捨てないでと乞えばいいのに
眠るレイラを胸に抱いたまま、マティアスは虚脱した溜め息を漏らした。
「ちゃんと生きていきたいのなら、捨てないでと乞えばいいのに、レイラ。」
(引用:原作74話)
自分にはこの女に与えられるものが無数にある。
安楽な暮らし、渇望していた大学、好きな鳥を研究して生きていく道。
君が愛した医者の息子が与えられなかったものまで、いくらでも。
それなのになぜ、良く生きるために去りたいと言うのか。
レイラを抱く腕に、無意識に力が込められていった。
すやすやと吐き出す規則的な呼吸の音が、音楽のように心地よかった。
温かい体、慣れ親しんだ匂い、小さな寝返り一つまで。
胸に抱いたこの女の全てが、マティアスは好きだった。
雪が舞い散る窓の外を見つめながら、マティアスは今冬の初雪が降った夜を思い出した。
街路灯の下で空を見上げ、瞬きする睫毛の上に降り積もった白い雪の粒まで、
今この瞬間のようにはっきりと覚えていた。
「レイラ。レイラ。レイラ。」
唇だけで囁いてみたその名前に、吐息が緩やかで温かくなった。
カイルの帰還
その頃、カルスバール中央駅に一人の青年が降り立った。
予告のない帰還だった。
持てる全ての勇気を振り絞って書いた最後の手紙にも、レイラからの返事はなかった。
未練を断ち切る時だと思い、旅立ったはずだった。
しかしどう考えても、このような拒絶はレイラらしくない。
あの長い間自分が知ってきたレイラではない。
不吉な予感がカイルを突き動かす。
「君を迎えに行くよ。僕と一緒に行こう。僕たち二人が幸せになれる場所へ。」
(引用:原作74話)
白く雪が降り積もった広場を、カイルは大きな足取りで横切り始めた。
次話では、アルビスへと向かうカイルと、それぞれの思いを抱えた二人の再会が近づいていく。
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