この結婚はどうせうまくいかない 原作3巻9章⑬|申し訳なくて【ネタバレ】

この結婚はどうせうまくいかない 原作3巻9章⑬|申し訳なくて この結婚はどうせうまくいかない

🌹 原作小説『この結婚はどうせうまくいかない』第3巻9章を高解像度あらすじ形式で構成しています。
本記事は、管理人ロゼの個人的な視点による考察を含みます。
本文中の会話・台詞は、原作の表現を適宜引用しています。

可哀想だって。

——僕が? 君に出会ったのが?

訓練中も、銃を磨いていても、その一言だけが耳元をよぎった。

問い詰めても、答えは返ってこなかった。

あらすじ|火種はどこにでもある⑬

——「あなたが私に出会ったのが可哀想」

その一言が、カッセルの神経を逆撫でし続けていた。

射撃場の将校たちを追い出したことにも気づかないまま、彼は考え続ける。

可哀想なのは君の方ではないのか。
僕のように散々遊んできた男と暮らしているのに——。

しかしイネスの答えは違った。

私も新品みたいにきれいなわけじゃない。私にも、他の誰かがいた。

そして最後に彼女は呟いた。

6歳のあなたが、私の目にとまらなければ良かったのに。

申し訳なくて、と。

分からないことを長く考えない男

イネスは幼い頃から、彼が理解できないことをよく言った。

カッセルは頭よりも体から使う方が楽な男だった。
イネスのおかげでできた癖があるとすれば、分からないことを長く考えないこと。

どうせ俺には理解できない、俺の婚約者はあまりにも賢いから——と。

しかし今回は違った。

あの一言だけが、聞き流せなかった。

射撃場の将校たちを全員追い出してしまったことにも気づかない。
金髪が風に乱れても、直すことさえ思いつかない。

ちなみに、しょんぼりした犬のような目——カッセルのあれは、多分わざとだった。

冷淡なイネスが、あの目に揺らぐ隙を持つことに気づいてから、鏡を見て練習したことさえある。
もっと憐れで、可哀想に見えるように。

弱点を知っている以上、利用しない理由がなかった。

「……やりすぎたか?」

大したことを期待したわけではない。

ただ、もう少し長く抱きしめていたくて、触れていたくて、それが苦手な彼女に少しだけ甘えてみたくて。全て、ささやかな欲望だけだったと断言できる。

彼は銃を下ろし、ゆっくりと顔を撫でた。

「こんな完璧な被造物のどこがどう可哀想なんだ」

結局のところ、イネスが勝った

昨夜、邸でいくら問い詰めても、まともな答えの一言も聞けなかった。

カッセルは暗闇の中のイネスの表情、息遣い、微妙な語調などを執拗に思い浮かべた。

馬車が止まるまで一言も返事をせず、官邸ではどれだけ苦しめても、ただ屈服するような態度で受け入れられた。

イネスはきっと、わざと全部を受け入れたのだろう。
彼に好きなようにさせるくらい、答えることに比べれば大したことではないとでもいうように。

さんざん困らせて泣かせておいて、必要な答えは一つも聞けなかった。そして今も、思い出すだけで発情しそうだという点において、完全に負けていた。

自分のちょっとした仕草一つ、耳元の声一つで、この男がすべてを忘れてしまうと知っているかのように——清楚で高潔なイネスの顔が、確信犯のものへと変わっていく。

裸で絡み合い、快楽を貪りながらも、油断した隙を狙って問い詰めると、うんざりして苛立った顔が気勢をそいだ。またセックスしたいなら黙れ、というように……。

発情した犬畜生のような自分には、イネス・エスカランテに敵う道理がなかった。

「なぜ?」を連発する4歳児のように尋ねても、祈りの邪魔だと追い払われるのがオチだった。
今夜、寝室から追い出されないためには、もう黙るしかないことも分かっていた。

それでも、朝になると幻聴のように聞こえてくるのだ。

君が可哀想だ、という言葉が。

腹が立っていたのだ

これほど苛立った理由が、ようやく分かった。

最初から、彼女に腹が立っていたのだ。

どうして図々しくも、自分が足りないなどと言うのか。

いくらイネスが自分で言ったことだとしても腹が立った。腹が立っているのに、あまりにも美しいから怒ることもできず、思考が停止していた。

君はもったいない。僕には過ぎた人だ。

ヴァレスティナ公爵が僕のろくでもない身持ちを知っても結婚を破棄しなかったのは、生涯で二度とない幸運だ——心ではそう思っているのに、君の頑固さに気圧されて言い出せなかっただけなのに。

だから君が、君の頑固さが、僕の幸運なのだ。

馬鹿みたいに、そんな言葉を並べ立てたかった。

君のそばにいられるのに、それがどうして同情される理由になるんだ。

自分が彼女に抱いている引け目も、それでもなお幸運だと思うすべての瞬間も、「可哀想なのは君の方だ」などという一言では到底言い表せなかった。

私にも、他の誰かがいたのだから

「……つまり、君こそ僕みたいに散々遊んできた男と暮らしているのに」

吐き出した結論に、イネスは小さく笑った。

「私も新品みたいにすごくきれいなわけじゃないのに。あなたも初夜から薄々感づいてはいたでしょうけれど」

彼女が自分の過去——カッセルの全く知らない領域——をほのめかしたのは、初めてだった。

話題が不快というより、むしろ嬉しかった。妄想の中で増えたり減ったりしている男の頭数だけでも知ることができれば、一瞬は胸がすっとするだろうと思ったから。

「私は、男といえばあなたしか知らないような純真な女じゃなかったのよ、カッセル」

「それがどうした」

「私にも、他の誰かがいたのだから」

淡々とした緑色の瞳が、躊躇いなく彼を見た。

あなたが女たちと楽しく生きていたからといって、私が可哀想になる理由はない。その事実に何の遺憾もない——と。

くそったれ。
関心すらもないのだろう。

見えないイネスの数年間よりも、彼女が少しも不満に思っていない自分の時間が、彼の息の根を止めそうになった。二人の関係が、酷く一方的なものだけで成り立っているのだと痛感させられた。

嫉妬する理由のないイネスは、いつでも飛び立てる鳥のように自由で。
自分だけが、首輪に繋がれた犬のように同じ場所を回っている。

たった一人

——誰か。

決して複数形では指されない、その「一人」という単語が、喉の奥でちらついた。

気にする資格などない、振り返る必要もない。いくらそう考えても、決して消せない、みっともない疑問があった。

もしかして、その男が君にとって、ほんの少しでも特別だったのか。

そして、その男にとっても君があまりにも大切で——だから最後までいかなかったのだとしたら。

イネスの、誰か。

たった一人の誰か。

思い浮かべるだけで、反吐が出そうだった。

50人だろうが100人だろうが、イネスが数え切れないほど多くの男と寝たのだと言われたなら、拍手でも送れた。君にとって価値のない奴らなら、どうでもよかった。

そんな関係より、一度もまともに肌を合わせることなく、切なく心に残った男が一人いる方が——遥かに耐えられなかった。

申し訳なくて

本当に問いたかった言葉の代わりに、オウムのように同じ質問を繰り返したカッセルに、イネスはようやく答えた。

「ただ、あなたがもったいなくて」

「時間が経つほどに、いくら考えても私にはもったいない気がして……あなたの過去だろうと、私の過去だろうと、そんなことは関係ないわ」

「……もったいない? 僕が、君に?」

「ええ」

いつもと変わらない微笑みなのに、胸が痛んだ。言い返したい言葉はたくさんあるのに、一つも出てこなかった。

「……だから、たまに6歳のあなたが、私の目にとまらなければ良かったのに、って思うのよ」

「申し訳なくて」

彼女はかすみゆく目を閉じながら呟いた。もう一歩踏み出せば、まだ見ぬ絶壁が現れるかのように。

カッセルはそれ以上言葉を発することができず、眠りにつくイネスを見つめていた。

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📖 今回のエピソード対象範囲

プラットフォーム対象話数
ピッコマ・LINE漫画・COMICO第47話相当
めちゃコミ第48話相当(推定)

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